火災後の建物、再利用できる?安全性を見極める鍵は火害調査にあり!

火害調査が建物の未来を守る理由とは?
火災後の建物を適切に活用するためのポイントをお伝えします!

2025年2月26日更新

空気の乾燥が一段と増す冬は、火災のリスクが急増します。今季も全国で火災による被害が相次いでいます。特に建物火災では、延焼しやすい環境が多くの建物に甚大な影響を与えています。
火災は建物に表面的な損傷だけでなく、内部構造や安全性にも深刻なダメージを及ぼします。しかし、どこまで補修が必要かを判断するのは容易ではありません。損傷範囲を適切に把握できなければ、過剰な補修や取り壊しに繋がり、建物の再利用可能性を見失うリスクも高まります。そのため、火災後の対応には慎重な判断が求められます。また、構造物の安全性が不明なままでは、住民や利用者の安心を提供することも困難です。
こうした課題を解決するために推奨されるのが「火害調査」です。火害調査は、火災後の建物の構造を丁寧に調査し、損傷の度合いを明らかにすることで、適切な補修計画を進めるための材料を提供します。この調査を通じて、建物の価値や長期利用の可能性を見極めることができます。今回は、火災後の建物をどのように安全に・適切に再利用するかの鍵を握る『火害調査』について、詳しくお届けします。

目次



1.火害調査とは?

火害調査とは、建物が火災に遭った後の被害状況を調べ、修理方法を提案するための調査です。対象は鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物になり、火災後も鉄筋等の構造物が利用できるかどうかを診断します。火害調査は安全性や再利用の可能性を判断する重要なプロセスであり、調査結果は建物再生の計画を立てるための土台となります。調査の流れは以下のようになります。なお、今回は【鉄筋コンクリート造】を中心にご紹介いたします。

火害調査の流れ


①予備調査
火災状況や建物の概要を把握し、一次調査の方針や計画を立案します。


②一次調査
目視観察によって、構造部材の被害状況の把握し、調査範囲の決定を行います。


③二次調査
一次調査で決定した調査範囲に沿って被害状況の詳細を確認し、材料分析や力学的試験で構造物のダメージを評価します。


④火害診断
全ての調査結果をもとに、被害等級や被災度を判定します。構造物(構造躯体)の再利用可否や再利用の場合の補強の有無を判断します。


⑤補修計画
補強要の場合は、火害診断を基に、補修範囲や工法などを策定します。

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このように、火災によるコンクリート面の受熱温度や熱の影響範囲を推定し、適切な補修・補強方法や範囲を提案する基礎資料を得ることを目的としています。


2.火害調査が活躍するケース

火害調査は、単に火災による損傷を調べるだけでなく、建物の再利用や補修計画を合理的に進めるための指針となります。
特に、以下のような場面で大きな役割を果たします。

①火災後の緊急対応
例:商業施設やマンションで、住民や利用者の安全性を迅速に確認したい場合
火災発生後、建物が使用可能かどうかの判断は、関係者にとって最も重要な課題の一つです。特に、人が集まる商業施設や集合住宅では、「建物の安全性は確保されているのか?」という住民や利用者の不安に迅速に対応することが求められます。


②補修・補強計画の立案
例:ゼネコンや設計会社がコストや工期を最小化しながら建物再生を目指す場合
火災によるダメージがどこまで広がっているのか、適切な補修方法は何かを判断することは、プロジェクト全体の成否に大きく関わります。火害調査を通じて損傷範囲を明確化することで、必要な補修のみを行い、無駄な工事を削減することが可能です。また、工期短縮にも繋がるため、施工スケジュールの最適化にも貢献します。


③顧客や住民への説明資料として
例:管理会社が科学的根拠に基づく報告書で住民に安心感を提供する場合
火災が発生した後、住民や建物所有者は「この建物は本当に大丈夫なのか?」と不安に思います。管理会社が適切な説明を行うためには、根拠に基づいた報告書や調査結果が不可欠です。
火害調査によって、建物の現状や補修の必要性が明確になれば、住民や顧客に対しても納得感のある説明ができ、トラブルを未然に防ぐことができます。


3.火害調査で実際に行う調査

火害調査の流れでお伝えしたように、火害調査は予備⇒一次⇒二次と様々な調査から成り立ちます。
様々な調査で明らかになった結果をもとに、火災後の建物の安全性を評価し、適切な補修・再利用の判断を行います。
火災の影響を正確に把握するためには、破壊試験と非破壊試験を組み合わせて、構造的な安全性や耐久性を確認する必要があります。
そのために様々な調査を実施していきます。以下に調査の詳細を流れに沿ってまとめました。

予備調査


本格的な調査に入る前に、はじめに火害状況を把握する「予備調査」を行います。
建物全体を見て、調査対象の設定や、安全に調査ができるかどうかを確認します。
予備調査は一次・二次調査の方針や計画を立案するために必要なステップです。
大規模な現場ではドローンを用いて映像で確認することもあります。

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当社所有の小型軽量ドローン「IBIS2」

一次調査


予備調査で得た情報を基に調査計画を立て、本格的な調査に進んでいきます。
一次調査では主に構造部材の被害状況を把握し、詳細の調査範囲を絞ります。
目視観察が中心となりますが、目視が難しい狭所や暗所の場合は小型・軽量のドローンを活用し、映像を取得して状況確認を行います。
火災後の建物は危険が多く存在するため、ドローンでの調査は非常に有効です。
このように火災による構造部材の外観上の損傷を確認後、以下の項目を重点的に調査します。

■構造部材の変形・たわみ:床版・梁のたわみ、柱や梁の曲げひび割れ・せん断ひび割れ
■コンクリート表面の損傷:浮き、剥離、爆裂
■仕上げ材や内装材の損傷:仕上げ材が剥がれているか、耐火被覆の剥離の有無
■煤の付着や変色状況:火害の熱影響範囲の特定


特に火災時の温度が高かったエリアでは、コンクリートの爆裂や剥離が生じやすいため、詳細な観察が必要となります。
一方で火災の状況などによっては、一次調査で終了する場合もあります。

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二次調査


二次調査では、一次調査で決定した調査範囲に沿って被害状況の詳細を確認し、さらに材料分析や力学的試験で構造物のダメージを評価します。
力学的試験や詳細の調査を行うことで、見た目では分からない構造物内部の状態を正確に判断することが可能になります。
ここでの調査結果が火害調査の最終的な評価・判断を左右するため、特に大事なステップとなります。


①ひび割れ測定(スケール測定)

火害によるコンクリート表面のひび割れをスケールを用いて測定し、以下の点を記録します。
■ひび割れ幅・深さの測定:構造安全性への影響を評価
■火害によるひび割れの特徴分析:火災特有の放射状ひび割れの有無



②コンクリートコア採取(コア抜き試験)

火害を受けたコンクリートの内部状態を調査するため、コア試料を採取して詳細な分析を行います。特に、コンクリートが高温にさらされた場合、内部の強度低下が発生している可能性があるため、試験結果を慎重に分析する必要があります。
■圧縮強度試験:コンクリートの強度低下を確認
■変色・ひび割れの有無:内部の熱影響層を特定
■中性化深さの測定:耐久性の変化を確認



③鉄筋調査(斫り調査)

火害による鉄筋の損傷を確認し、以下の項目を調査します。火災時の高温によって鉄筋が軟化し、再冷却されることで脆性化が進むことがあるため、鉄筋の変形や強度低下を正確に把握することが重要です。
■鉄筋の酸化・腐食状況:火災による急激な温度変化で脆弱化していないか
■鉄筋の変形や塑性化の有無:強度が低下しているか
■鉄筋とコンクリートの付着強度:構造的な一体性を維持できるか



④非破壊試験(内部構造の確認)

火害の影響を建物を傷つけずに評価するため、以下の非破壊試験を組み合わせて行います。
■シュミットハンマー試験(コンクリートの強度推定)
 ⇒コンクリート表面の硬度を測定し、強度の低下傾向を推定。
■超音波伝播試験(内部欠陥の検出)
 ⇒超音波を用いてコンクリート内部の空隙やひび割れの進行を非破壊で確認。
■X線探査(鉄筋探査)
 ⇒鉄筋の配置・本数・かぶり厚を非破壊で確認し、火害の影響を評価。
■熱影響層の評価(変色・脆弱化層の特定)
 ⇒火害による熱変色の範囲を分析し、受熱温度の推定を行う。

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コンクリート中性化試験の様子

4.火害調査が持つ可能性

火災は建物の外観だけでなく、内部構造にも甚大なダメージを与え、時には解体や再建の決断を迫られます。しかし、建物の持続可能性が注目されるこの時代に、全ての火災被害建物が取り壊されてしまうのは疑問です。
近年、火害調査の重要性が見直され、適切な調査と評価を通じて被害を受けた建物を再生・再利用する道が広がっています。火害調査は単なる被害状況の確認にとどまらず、持続可能な都市づくりや防災対策の強化にも貢献する可能性を秘めています。ここでは、火害調査を活用することで生まれる3つの可能性について掘り下げていきます。

①災害に強い地域づくりの一環として
火災が発生すると、建物の使用可否を判断しなければなりません。しかし、すべての建物が完全に使用不可になるわけではなく、適切な火害調査を行うことで、被害を受けた部分と安全な部分を明確に区別できます。これにより、部分的な補修・補強を施しながら建物を再利用できるケースが増え、防災・減災の観点からも有効です。また、地域全体の防災力を高めるためにも、火害調査のデータを蓄積し、建物の火災リスク評価や防火対策の向上に活かすことができます。こうした取り組みは、災害発生後の迅速な復旧を可能にし、地域の安心・安全を支える重要な要素となります。


②環境への配慮
建物を解体して新築する場合、莫大な資材が必要となり、多くの廃棄物が発生します。一方で、火害調査を活用すれば「再利用できる建材」と「交換が必要な部分」を適切に分類し、廃棄物の発生を最小限に抑えることが可能になります。これは、カーボンニュートラルの推進やサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現にも直結するアプローチです。近年、持続可能な社会の実現が求められる中で、火害調査を通じた建物の有効活用は、環境負荷の低減に貢献する新たな選択肢となりつつあります。


③クライアントとの長期的な信頼関係の構築
火害調査は、建物の現状を客観的かつ科学的に評価し、最適な対応策を提案するプロセスです。そのため、調査結果に基づいた適切な対応を行うことで、クライアントにとってのメリットも大きくなります。例えば、調査によって「この建物は補修すれば使用可能」と判断された場合、不必要な解体コストを削減できるだけでなく、事業の継続性を確保することにもつながります。また、調査結果を透明性高く提供することで、建築・設計会社やマンション管理組合、行政機関などの関係者からの信頼を獲得し、長期的なパートナーシップの構築にもつながります。

以上のように、火害調査は、単なる火災被害の確認にとどまらず、災害復旧、環境保全、クライアントとの関係強化といった多面的な価値を生み出す可能性を持っています。
適切な調査を行い、データをもとに最適な選択をすることで、火災被害建物の有効活用が可能になり、持続可能な建築・都市づくりにも寄与します。火害調査の活用が、未来志向の建物再生への第一歩となるでしょう。



5.まとめ

建物が火災の影響を受けた場合、その後の対応によって資産価値や管理コストに大きな違いが生まれます。火害調査を活用することで、建物の安全性を科学的に評価し、最適な対応策を導き出すことが可能になります。
適切な火害調査を行うことで、どの部分を補修・補強すべきか、どの範囲なら再利用可能かを的確に判断できるため、不必要な解体を回避し、修復可能な建物を有効活用することができます。その結果、建設・維持管理におけるコストを最適化し、長期的な資産価値の維持・向上にもつながります。また、調査結果は火災リスクの高い建物やエリアのリスク管理データとして活用することも可能であり、今後の防災・減災対策の強化にも貢献します。
火害調査の実施は、単なる火災後の対応にとどまらず、将来的な建物管理や都市計画にも影響を与える重要な判断材料となります。火災後の建物について「解体するしかない」と考える前に、まずは専門家の調査を受けることで、より適切な選択肢が見えてくるかもしれません。
火害調査を活用することで、建物の価値を最大限に引き出し、長期的な視点で建築資産を守ることができます。火災発生後の判断に迷われた際は、ぜひ専門家にご相談ください。



東京ソイルリサーチの建物調査

地盤から建物までの一貫したサービスを提供している東京ソイルリサーチでは、約50年にわたり建物構造の調査・診断・設計業務を行っています。
耐震診断や補強設計、耐久性評価など、これらに必要な各種調査から監理まで一貫して対応しています。
小さな建物から、学校の校舎やビル、伝統建物まで、様々な調査・診断・補強設計を手掛けてきました。豊富な経験で、お客様の立場で考え、ご要望にお応えします。
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