早めに見直すべき擁壁とは?ー宅地擁壁編ー
その擁壁は安全ですか?
スペシャリストが擁壁の安全性や課題を解説します!
2024年5月7日更新
街を歩いていると、日常的に見かける街中の「擁壁」。街のいたるところに幅広く存在しています。
そんな擁壁ですが、地震や豪雨などにより、崩壊してしまうニュースなどもよく目にします。
さらに、古くなった擁壁は、崩壊を引き起こす要因が多く含まれている危険性もあります。
今回は、私たちにとって馴染み深い「宅地擁壁」をテーマとし、当社の擁壁部門のプロが擁壁の概要や課題、そして安全性を保つために必要なことを丁寧に解説します!
擁壁のことをあまり知らない方から、宅地やマンション施設等のメンテナンスを検討している方まで、参考になれば幸いです。
目次
1.擁壁とは?
擁壁とは、専門的に言うと「がけ崩れを起こそうとする土の圧力に対抗して、がけ面を保護する構造物(工作物)のこと」と表現されます。
簡単に表すと、不安定な崖面を安定させてくれるのが擁壁です。
ただの壁のように見えますが、宅地などを保全し、人々の命や財産を守る大きな役割を果たしています。
2.擁壁の種類
「擁壁」といっても様々な種類がありますが、今回は「宅地擁壁」に焦点を当てご紹介します。
宅地擁壁の種類は大きく2つに分かれます。これから街中で擁壁を見かけた際は、どれに当てはまるかを考えてみてみるのも面白いかもしれません。
自宅に擁壁を設置している方は、どのタイプかを思い出しながら読んでみてくださいね。
- 練積み造(ねりつみぞう)
コンクリートブロックや間知石等を積んでできた擁壁のことを言います。
計算法が確立されておらず、断面が経験的に定められたものが多くあります。
がけの土質と擁壁高さ(地上高)によって形状を決定していきます。
背面地山が締まっている良好な地盤に適用可能です。
なお、コンクリートブロック(間知石等)の接合部や背面にコンクリートが打設されていない「空積み造」は既存不適格擁壁とされ、石の抜け落ちや崩壊に繋がる危険性が高くなります。 - コンクリート構造物※3
コンクリートでできた擁壁のことを言います。
練積み造と違い、安定計算や構造計算が必要となります。
計算と聞くと難しく聞こえますが、複雑な解析などではありません。
コンクリート構造物は下記の2パターンが存在します。
①無筋コンクリート造
無筋コンクリート造の代表として、重力式、もたれ式などがあります。
これらは擁壁自体の重量により土圧に抵抗する擁壁となっており、基礎地盤や背面地盤が良好な場合に用いられます。
②鉄筋コンクリート造
鉄筋コンクリート造の代表として、片持ち梁式(L型、逆T型、逆L型)、控え壁式、半重力式などがあります。
壁体は鉄筋コンクリート構造で土圧に対しては、擁壁自体の重量だけではなく、底版上の土の重量も安定に利用でき、片持ちばりとして抵抗します。
その他、国土交通大臣の認定を受けた擁壁(大臣認定擁壁)があり、例えば工場生産によるプレキャスト部材の擁壁が含まれます。
種類が多く混乱しそうになりますが、その土地の地形・地盤などの条件に適した安全性を保つために様々な擁壁が設置されているのです。
3.日本に擁壁が多い理由
日本には数多くの宅地擁壁が存在しています。その理由としては、以下が考えられます。
■山地や丘陵地にも建物が多くあるため
日本の地形の特徴を思い出してみましょう。山地が約7割で、平地が約3割です。日本には、山地や丘陵地が圧倒的に多いのです。
高度経済成長期には人口が爆発的に増えたこともあり、これまで住んでいなかった丘陵地の宅地開発も進みました。
そのため、斜面の多い山地や丘陵地にも人々が居住するようになり、宅地・建物が増えていきました。
高低差のある場所では、擁壁が必須となります。
こうした背景もあり、日本にはますます擁壁が増え続けてきたのです。
■豪雨や地震などによる自然災害が多いため
日本では地震や豪雨など、自然災害が多く発生します。
特に斜面のある場所では、地震で地盤が揺れたり、大雨により地盤が緩むことで土砂崩れが発生する危険性が一気に高くなります。
土砂崩れを防ぐためにも、擁壁を設置することは非常に重要なのです。
擁壁があることで、地盤の動きを抑えることができます。
このように、自然災害の発生が多い国であることからも、擁壁の多い理由を読み取ることが出来ます。
4.今、既存擁壁が危ない!?
私たちの安全を守ってくれるはずの擁壁。
しかし日本には既存不適格擁壁という、「宅地造成等規制法」等の関係法令に則らない擁壁が数多く存在していると言われています。
既存不適格宅地擁壁は、崩壊などの危険性が高く、通行人を事故に巻き込んでしまう恐れもあります。
大きな事故が発生してしまう前に、擁壁の安全性を確認することは急務と言えます。
既存不適格擁壁とされる危険な擁壁が多い理由としては、老朽化と擁壁構造が技術的基準に則っていないことが主な原因です。
このような擁壁を修理するには、時間と費用、人手が必要となりますので、迅速な対応が難しいのが現状です。
危険な擁壁は下記のようなものです。
- 石積み擁壁の空積み擁壁
先程も出てきましたが、コンクリートなどで充填していないため、地震などの際に崩壊しやすくなってしまいます。
- 増し積み擁壁
既存の擁壁の上に、追加で異なる種類のブロックなどを積んだ擁壁のことをいいます。
追加した擁壁は、下段の擁壁にとって非常に負担となりバランスが悪く崩壊の可能性が高くなります。
全体的に強度が不足してしまうことも崩壊の危険に繋がります。
5.宅地擁壁の耐震性
2016年熊本地震では、被害が集中した5市町村における擁壁被害は2,930件に上ると報告されています(「平成28年熊本地震による宅地被害の特徴;土木技術資料59-7(2017)松下一樹、須藤哲夫、小松陽一、村田英樹」より)。
宅地擁壁に大規模地震に対する耐震性が要求されたのは「1995阪神大震災」以降であり、近年頻発する比較的大規模な地震や将来発生すると想定される東南海地震に対して、大半の宅地擁壁が耐震性を有しているとは想定できない状況です。
6.擁壁の安全を守るには?
では、擁壁の安全を守るにはどうしたらよいのでしょうか?
それはやはり、定期的なメンテナンスを行うに越したことはありません。
一般的に擁壁は30年から50年が耐用年数と言われています。
しかし、自然災害の多い日本は、土砂災害が発生したり、災害により地盤の状況が変化しやすいことも考えられます。また、その都度劣化が進んでいる可能性もあります。
自分と人々の安全と命を守るためにも、日常の目視点検だけでなく、定期的にメンテナンスを行ったり、必要に応じて専門家に相談できると安心ですね。
危険かも?と感じた場合は、擁壁を専門とする業者などに調査を依頼することをおすすめします。
7.まとめ
擁壁は私たちにとって馴染みのあるものです。
しかし、自然災害の多い日本では、全国あちこちで地震や豪雨に耐えることが困難な擁壁も沢山存在しています。
また高度成長期に建設された宅地擁壁の進展と併せて、ここ数年で宅地の安全性確保は重要な課題となっています。
私たちの命にも直結する問題です。この機会に、擁壁の調査やメンテナンスおよび東南海地震などの巨大地震に対する耐震対策を行ってみてはいかがでしょうか?
健康診断のように、見た目は大丈夫でも、内部で劣化が進んでいるかもしれません。崩壊してしまう前に、是非チェックしておきましょう!
※1,2,3,4:東京都多摩建築指導事務所「既存擁壁の安全確保について」より出典
東京ソイルリサーチは擁壁調査も経験豊富!地盤から丁寧に調査を行います。
弊社は横浜支店・関西支店に土木設計室を構えており、経験・知識豊富な擁壁調査チームが調査から分析、提案まで行い手厚くサポートします!
地盤調査会社の強みを活かし、地盤チームとも連携しながら地盤視点でも調査を一貫して行います。
また、社内の防災設計技術を活用して、現況宅地擁壁のリニューアル計画、耐震性の把握、大規模地震などに対する耐震対策の提案を行うなどの防災技術にも力を入れています。
<< 調査の流れ >>
①健全性・安全性を確認します
外観から変状の有無や劣化状況を確認し、健全度の判定を行います。必要に応じて、擁壁から試料を採取し、部材の強度や状態を確認したり、周辺地盤の調査を行い擁壁や崖全体の安定性を確認します。
②問題点の抽出を行います
既存不適格擁壁と判断された場合は、擁壁の損傷原因を究明して対策を練ります。必要に応じて、地盤調査など幅広い視野で調査を行うなどして徹底的にチェックします。
③対策案などをご提案します
調査結果の報告以外にも、対策が必要な場合は改築や補強、補修の提案を行います。
最後までしっかりサポートさせていただきます。
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